サンタクロースとトイレットペーパー: 小松さんとわたし(19)

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「よーし本を読むぞ!」と決心して高校二年生で読書帖をつけはじめてから、はじめて買った小松さんの本は6冊目だった。北杜夫・安部公房・山口瞳・遠藤周作・星新一、そして小松左京。買ったのは新潮文庫の『戦争はなかった』。ある日を境に日本人全員の記憶から「大東亜戦争」の記憶が消えてしまい、それでも淡々と進んでいく日常に「たったひとり」戦争はあったという思いを消せない主人公は混乱していく…というSF。SFといっても未来都市も宇宙船も出てこない。文庫本のあとがきは田辺聖子さんが書いている。「小松左京さんは一言でいうと、サンタクロースのような感じのする御仁である。」

1970年代後半、『日本沈没』は話題をさらったあとだったが、本が分厚かったのを敬遠したのか、『日本沈没』は2008年になってようやく読んだ。最初に『日本沈没』が出たのは1973年。その年の12月29日には早くも映画公開されている。1973年後半といえば、千里丘陵ではあの輝かしいトイレットペーパー騒動が10月末から勃発していた。暮れには年越し用の灯油を、北千里駅前にあったガソリンスタンドまで買いに行かされた。映画『日本沈没』封切とまさに同じ時期に、僕らは灯油を買いに行列していたのだ。未来都市も宇宙船も出てこなくても、日常の認識がすっかり変わってしまう…という出来事は、まさに小松さんの世界だった。

田辺さんは書く。その多種多様な中身が詰まった福袋から、次はいったいなにが出てきて私たちを楽しませてくれるのか…?まさかそれがトイレットペーパー騒動だったということはないだろうけれど、1973年の12月は皆小松サンタクロースにしてやられていたのかもしれないと、そんな気がしてくる。なんだかあの騒ぎも面白かったな。日本が沈むなんて恐ろしい話を書いていながら、どうして小松さんはああも飄々としていたのだろう?

(by okkun)

※写真は1973年12月、北千里駅前(いま医療ビルがあるところ)にあったガソリンスタンドで灯油の売り出しに並ぶ人たちの行列。藤白台にお住まいの永井俊雄さん撮影。許可を得て使わせていただいていますので、この写真の転用はおやめください。

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