本のご紹介: 『驚きの介護民俗学 』

六車由実・著
医学書院
2012年3月発行 (2000円+税)
六車さんは『神、人を喰う』で2003年のサントリー学芸賞をうけた気鋭の民俗学者である。ところが大学に勤めていたのを突然止め、静岡県東部地区の特別養護老人ホームの介護士になったのでびっくりした。
日本は将来、老人の国になることは確実である。しかし、現状は3・11災害や都会の孤独死の報道がしめすように、まだまだ低いレベルでしかない。これからは設備や機器などのハード面の整備にまつところがおおいのだが、それでも基本は人と人との関係であることを忘れてはならないだろう。
これまでの民俗学は、村の古老を訪ねて、むかし話を聞きくこと、それを学会誌などに発表することだった。民俗学徒は老人の話をじっくりと聞く知識と技法を基礎として叩き込まれている。だから、それを役立てたいというのが、六車さんの思いである。
客観性を重視するこの学問は(宮本常一さんなど、少数の例外を除き)プライバシーに踏み込むことはなかった。ところが、個人情報がかかわると、すでにある介護のノウ・ハウとの軋轢があるし、(記録の公表を目的とする学者としての)学問的志向とも激しくぶつかるなど難題が山積しているのである。
それでも、安い賃金で、激しいルーティンワークをこなしながら、「老人ホームで働き、そうした利用者に囲まれている毎日が、まるでフィールドワークをしているかのように刺激的であり、幸せの日々なのである」という、彼女の明るさと馬力は将来きっとこの分野に新しい光をなげかけるだろうと期待している。
(カンチョー)
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